日田の祭り

日田市で今日、35.4度を記録し、今年全国初の猛暑日となったそうです。あそこはたしかに暑い。

住んだことはないですが、仕事(病院の当直)でしばしば滞在したことがあります。

その日田市で思い出すことが、いくつかあります。今日はそのうちのひとつを。

「日田天領まつり」という、日田市の豆田地区で行われる祭りがあります。

江戸時代の装束の人たちが、豆田町一帯の路上を練り歩き、踊り、またそれを見物する人たちで賑わいます。

道路は一定の区画が車両通行止めとなり、そこは行列や踊りのための広場と化すのです。

ある日、私が当直医として病院に向かっているとき、まさにその祭りは最高潮でした。

そして目的の病院は、車両進入禁止区域の中にありました。

私が車止め部分で途方に暮れていると、祭りの実行委員のような方が寄ってきました。

「ここからは入れません。迂回してください」

「救急病院の当直医なので、どうしても入らなければならないのですが」

「それでしたら、ゆっくりとお進み下さい」

私の表情がよほど切羽詰まって見えたのか、例外的に進入が許可されたのでした。

祭りの行列は、8列ぐらいの幅で、ず〜っと向こうの方まで連なって、全員が同じ踊りを踊っています。

そしてその行列に向かってゆっくりと車で接近する私を、人々は怪訝な顔で見ます。

その時です。奇跡が起きたのは。

祭りの列が、真ん中から真っ二つに割れたのです。踊っていた人々が、いっせいに道の両端に寄ったのです。

道路の中央には、私の車が進むべきひとすじの道ができ、それがず〜っと向こうまで、続いているのです。

モーゼもきっと、このような光景を見たことでしょう。

私がその道を、そろりそろりと進む間も、両側では踊りが続いています。

なるほど。ときどき道の両脇に分かれて踊るような、たまたまそんな踊りだったようです。

案の定、数秒もしないうちに、両側で踊っていた人たちはまた道路の中央に戻り、道はふさがれました。

私は車を止め、次に「割れる」タイミングが来るまで、踊りを見続けたのでした。