3/7付の週刊文春に、池上彰氏による「ドラッグ・ラグに泣いた安倍首相」という文章がありました。
新薬がもっと早く国内承認されていれば、前回首相を辞任することもなかったのに、という内容です。
残念ながら、本質をとらえ損なった記事だと思うので、私なりにこの問題点をとり上げます(長いです)。
安倍氏は2007年9月、難病「潰瘍性大腸炎」の病状悪化に耐えきれず、首相を辞任しました。
激務をこなすうちに、それまで使っていた治療薬「ペンタサ」では、症状が抑えられなくなったのです。
再び首相になれたのは、2009年に発売された新薬「アサコール」のおかげだと、本人がそう言ってます。
「この薬は欧米では20年くらい前から使われていたのですが(中略)承認が遅れました。本当に残念です」
安倍氏がこう言うように、欧米で使用されている薬が日本で承認されるまでの遅延が、問題となっています。
これが「ドラッグ・ラグ」です。欧米と日本との、薬の発売時間差は、平均2.5年だそうです。
その原因は、国内での「治験」や「審査」に時間がかかるためだと言われてきました。池上氏も同じ論調。
しかし詳細な研究によれば、治験や審査に要する時間は、米国と日本で大差ないことがわかってきました。
本当の問題は、治験以前の「治験着手時期の遅れ」であり、これがドラッグ・ラグの主因だといいます。
実際に、ゼリア新薬によるアサコール治験は2004年に始まり、その後4年で製造承認にこぎ着けています。
もう少し早くならんか、とは思いますが、治験と審査の段階で、異常に時間がかかったわけでもありません。
その意味で、池上氏は本質をとらえ損なっていると、私は言っているのです。
最大の問題は、90年代には欧米で普及していたこの薬の、国内治験が2004年にやっと始まったことです。
その理由は、すでにペンタサが普及していた日本で、さらにアサコールを発売する動機がなかったからです。
新薬開発の主要なインセンティブは、臨床的重要度ではなく、市場規模(=企業の利益)なのです。
潰瘍性大腸炎のような、国内患者数が少ない難病の治療薬は、需要が見込めないので儲からないのです。
こういった難病治療薬を「オーファン・ドラッグ」といいます。「オーファン」はみなしごの意味です。
患者数が少なければ治験もやりにくい上に、開発コストに見合う収益も見込めず、開発着手が遅れるのです。
オーファン・ドラッグの開発は社会貢献の側面があり、製薬会社任せにせず、国家的支援が必要です。
理解のある安倍首相の、ドラッグ・ラグ解消政策に期待します。