「クリスマス病」という病気があります。A、Bふたつある血友病のうちの、血友病Bの別名です。
血液凝固因子のうち、第IX因子(別名クリスマス因子)が欠乏し、血液が凝固しにくくなる疾患です。
クリスマス病の治療は、このクリスマス因子を補充することによって行われます。
かつては、多量の血液からクリスマス因子を抽出・濃縮して作った「非加熱血液製剤」が使われていました。
これが「クリスマシン」。のちに薬害エイズや薬害肝炎で問題になった薬のひとつです。
私が大学病院で研修医のころ、心臓手術後の止血のために、クリスマシンを使った時期がありました。
当時は、加熱製剤が発売されながら非加熱製剤も並行販売されていた、後に訴訟で問題となった時期です。
数年後にエイズ問題が起きたため、急遽、この薬を使用した患者さんがリストアップされました。
この人たち全員に連絡をとって、HIVの検査を受けてもらわなければなりません。
この問題は、意外な展開により解決しました。
大学病院における過去の血液検査で使用した患者さんの血液の残りが、すべて凍結保存されていたからです。
これを行ったのが、検査部の大河内教授だと聞きました。
厚生省のエイズ研究班で、より安全なクリオ製剤の使用を主張して、班長の安部教授と対立した人物です。
この保存検体の検査によって、すべての該当者でHIV陰性であることが判明しました。
われわれはホッと胸をなで下ろすと同時に、大河内教授の徹底ぶりに敬服したのでした。