ポンプ

心臓を手術するとき、その術式の内容によっては、一時的に心臓を止める必要があります。

しかし心停止の間も、脳などの主要臓器への血液循環は維持しなければなりません。

そのため、特殊な器械を血管に接続して、人工的な体外循環を行います。

この装置のことを、人工心肺といいます。その中心的役割は、

(1)心臓の役割:血液を循環させる(ポンプ)

(2)肺の役割:血液に酸素を供給する

人工心肺を稼働させることを現場では「ポンプを回す」と言ったりします。

「ポンプの準備はいいか」とか「急いでポンプ回すぞ」などは、心臓手術の現場でよく飛び交う言葉です。

大学の心臓外科医局にいた頃、この装置の監視担当医を「ポンプ係」と呼んでいました。

私も月に数回程度、ポンプ係の順番が回ってきました。

我が家のスケジュールボードには、ポンプ係の日のところに「P」の印を付けていました。

家人はそれが「ポンプ係」の日であることを知ってはいたものの、そもそも「ポンプ」とはどんなものなのか、その形態をイメージできないままの年月を過ごしていたようです。

私が不在の時、訪れてきた客人はたいてい、このボードを見て「P」印の意味を尋ねたそうです。

それに対して家人は「ポンプ係らしい」とだけ答え、客人もまた「ふぅん」と納得して、それ以上は聞かなかったとのこと。

はたして客人たちは、訪問先の旦那の仕事内容を納得して帰宅したのでしょうか。

井戸水をくみ上げる緑色の手押しポンプを想像したのではあるまいか。

あとでこの話を聞いて、客人らに補足説明をして回りたくなったものです。