ステーキ

熊本に引越してきた12年前、すぐに気付いたのは、ステーキレストランが少ないことでした。

その前に住んでいた高松には、客の前で焼いてみせる方式のステーキ店が多かったのです。

もちろん、うどん店よりは少なかったですが、ラーメン店よりは多かった(かも)。

子供の頃はそれを「ビフテキ」あるいは「テキ」と呼んでいました。

「今日はテキよ!」と母が得意気に告げると、食卓に出てくるのはケチャップ味の硬い肉片でした。

小学生の頃、家族旅行で東京に出かけたときのこと。

お上りさん丸出しで、某レストランで夕食。

お冷や(水)をもらおうと、父がウエイターに告げた一言。

「ウォーター!」

田舎者と思われたくなかったのです。

店員はさぞや笑いをこらえるのに必死だったことでしょう。

初めてまともなステーキを食べたのは、学生時代、友人の結婚披露宴でした。

待ちに待ったメインディッシュは、厚みのあるヒレステーキ。

慣れない手つきでナイフとフォークを駆使して、同じテーブルの友人達と競うように、すごい勢いでペロリとたいらげたものです。

「やっぱりヒレはうまいね」とか言っていたところに現れたのがウエイター。

ひとりひとりの皿に、うやうやしくステーキソースをかけて回ります。